お話をしよう。
物語。
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世界には、たくさんの人が居る。其れはもう多くてね、全員の事なんて誰も把握できない。
屹度、神様だって分からないだろうね。
色んな人がいる。
大きな人
小さな人
男の人
女の人
初めて文字を作った人
初めてベーコンを作った人
卵を割るのが得意な人
上手く鉛筆を削る人
歌う人
聴く人
あの人
此の人
君
私
14人よりは、もう少し、もっと多い人がいるね。
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今日は、誰の話にしよう。
世界で最後の人の話。
人の営みが極まった頃のお話。
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彼は確か、最後の人だった。
いずこの空と、いつかの海に。
遂にも終にも、人人は格を拡張してゆき、隣も先も既知となった時代。私たちは全能と全知を選択することになった。
生命の樹の発見は世界をその発見以前と以後にわけるほどのものだった。持ち帰ったその樹を育て、実を生らせたの時には私はもうずいぶんと老齢になっていた。街の保護の中で、果実は増やされていって、私にも口にする時が来た。
忘れることが出来ない。甘美なんてものじゃなくって、甘くも酸くもない、生きている状態そのものの器官を食べたの。私たち番の、私たちの始まりの日、今の貴方たちの終わった日。私のものは、屹度、生命の樹の果実だった。彼のもとにあったのは、だから偽の果実。
初めは、彼を全て分かることが出来た。次に彼の声が聞こえなくなっていって、私たちは身振り手振りで、笑顔や泣き顔で互いの気持ちを伝えるようになった。月が回る頃、彼の輪郭から指先から徐々に見えなく感じなくなっていった。温度もリズムも、必死に触らないといけなくって、それと別に私には彼の細胞の生きている数まで数えられた。私たちはずっとずっと近く近くで抱き合って眠る。
植物と獣と鳥と魚になっていく私を、彼はどんな気持ちでそばに居てくれたのだろう。
私が実を生らす時まで、彼は生きてはいなかった。
失われる物語。
(彼の死と共に)失われる物語。
失われる(ことなく、永遠に保ち続けられる)物語。
誰にも渡したくない実。外連味の無い私の為のもの。
やがていつかはあなたの子らにも。